2014 年 10 月 のアーカイブ

2014 年 10 月 27 日

妖怪のせいなのね!?

フリースクールスタッフ 新藤理

放送が終わって一年以上経った今も「あまちゃん」を観ることがよくある。ストーリーや役者の素晴らしさもさることながら、「あまちゃん」は劇中の音楽がどれもいい。絶妙な(いい意味での)乱雑さ、変テコさがクセになるのだ。学園でも「あまちゃんにハマった」という生徒は何人もいて、放送当時は誰かが持ってきたサウンドトラックCDがフリースクールを賑わせていた。
「あまちゃん」の音楽を担当したのは大友良英さん。映画・ドラマの音楽も作っているが、元々は即興でノイズミュージックを鳴らす実験音楽家だ。その大友さんがこの夏、札幌で大々的な盆踊り大会を開催した。札幌国際芸術祭の一環として、北3条広場に巨大な風呂敷とやぐらを登場させ、「あまちゃんバンド」のミュージシャンたちとともに演奏された音頭の数々。その生のサウンドは、集まった市民を思いきり踊らせていた。みんな汗だくで、無我夢中だった。
盆踊りは地域のつながりを確かめながらみんなで明るく祖先を偲ぶイベントとして日本人にはお馴染みのものだけど、実はとても個人的な営みなのではないか。実はその日ちょっと気が沈んでいた私は、盆踊りの果てしない反復の中で、思いきり身体を動かしているのに心はどんどんおだやかになっていくのを感じていた。なんだか、たくさんの失敗も後悔も、すべてが赦され、洗い流されていくような感覚があった。15時から始まった盆踊り、それがすべて終わる20時まで私は踊りきった。会場に高校時代からの友人がいたことを後で聞いたが、「あまりにも真剣にトランス状態で踊っていてとても声はかけられなかった」らしい...

先日の学園祭で、私は「発表部門」という新たな部門を担当することになった。中高生が一緒になって一つの出し物を制作するチームだ。
初めて集まった時から「自分たちだけじゃなく、会場みんなで楽しめる出し物をしたい」と言っていた彼らに、私は半ば本気で「みんなで盆踊りやったら楽しいぞ!」と提案をしてみた。残念ながら(?)その案は通らず、しかし踊りでみんなを巻き込んで盛り上がろうというコンセプトは生き残った。そして、客席全体で一緒に踊れるダンスとして選ばれたのは「ようかい体操第一」だった。
おもに小学生に大人気の「妖怪ウォッチ」から生まれたこの体操。夏にフリースクールの生徒たちとともに保育園を訪問した時も大人気だった(重ねて言うが、取り組むのは学園の中高生たちである)。いったいどうなることかと思ったが、演目が決まってからのチームの取り組みは、見事だった。練習の時から、みんな実に生き生きと楽しく、そして真剣に踊っている。私も一緒になって踊ってみると、なるほど、大ブームを巻き起こしただけのことはあって、実によくできた体操なのだ。身体のコントロールと解放、力をためるところと発散するところ、そのバランスが絶妙だ。振り付けは、かの有名振り付け師・ラッキィ池田さん。そして流れる音楽もなんだか変テコで、そこがクセになるといえなくもない。これは大人も子どももみんな楽しく踊れるだろう。私はいつの間にか生徒たちを凌ぐ勢いで(?)ようかい体操にのめり込んでいった。

学園祭の本番、もう一つの演目「銀河鉄道999」(こちらはスタイリッシュなダンス。これももちろんみんな真剣に練習していた)に続いてようかい体操が始まった。ざわめく会場、やけにマジメな顔つきで踊る発表部門のメンバーたち。しかし、舞台から「ジバニャン・ロボニャン」が登場するといよいよ観客たちも盛り上がり始めた。半ばむりやりに客席から生徒たちを引っ張りだし、ステージで一緒に踊らせるジバニャンとロボニャン。あやふやな振り付けで、照れながらも一緒に踊ってくれる学園の仲間たち。スピーカーから流れる割れ気味の音楽に合わせて踊りながら思う。これはいつかの盆踊りと同じ光景だ。みんながそれぞれに、自分なりの楽しみ方で、それでもゆるやかな結びつきを感じながら、思う存分輝いている。
三回もくり返されたようかい体操を終えて、発表部門のメンバーは汗だくだった。まさか思いもよらなかっただろう。あの変テコな体操と音楽が、自分たちのこの秋の思い出を決定的に彩るテーマソングになろうとは。そのあり方は、なんだか一年前の「あまちゃん」との出会いにもちょっと似ている気がする。音楽も踊りも、変わった形をしたものほど、心に刺さって抜けなかったりするものだ。今でもあの音楽が流れれば、生徒たちも私もすぐに踊り出すに違いない。「踊りたくなるのは妖怪のせい」と恥ずかしさを捨てて。