2009 年 5 月 30 日

魔法のトランプ

                                                                               新藤 理

4月のはじめ、明日から新入生(体験入学生)たちを迎えるフリースクールの在校生たち。彼らを前に、私と{・コさんは「今年はみんなでコレをはじめよう!」と高らかに語った。ホワイトボードには「友だち増やそう大作戦!!」と大きく書いてある。

何ということはない。新しくやってくる仲間にできるだけ積極的に声をかけてみよう、自分が入学したときと同じように「ここなら通いたい」と思ってもらえるようがんばってみよう、というわけである。コトの重さに気づいてかどうか、在校生たちは戸惑いも気合も口にして、明日からのことを考えはじめた。

そうはいっても、在校生だって決して人付き合いが器用にできるわけではない。新入生がやってくる初日。私たちスタッフも新入生を迎えてからは授業をけずってゲームの時間をつくったり、何とかお互いに打ち解けられるような工夫をしてみたが、固い空気はなかなか変わらない。こういう時の頼みの綱は、意外にも古典的な「トランプ」だ。宴会の景品でもらった新品のトランプをこの日のために取っておいたのだ。

やろうぜやろうぜ! と明るくみんなを誘いながら、(こんなふうに声をかけるのって、そりゃやっぱり緊張するよなぁ…)と実感する。ぽつぽつと集まりはじめる参加者。なんとなく、新入生も混ざっている。ときおり聞こえる遠慮がちな笑い声。

でも、こうなってしまえばあとは意外とラクなもの。生徒たちはそのうち私ヌキでもトランプを始め、「新藤さんのトランプ」はいつの間にか「これはうちらのトランプだからね!(新入生談)」に変わっていた。それまでの、お互いを知らなかった時間を埋め合わせるように…いや、そこまで深く考えるまでもなく、生徒たちは自然とお互いを受け入れていった。

4月に入学したある生徒は、中学校でのつらい経験について話している中で、ふと「いやー、うちの中学の人たちもさ、こういうとこ(フリースクール)に来たほうがいいと思うよ」と言った。どうして、と聞くと
「だってさ…ここの人たちって、いろんな人がいるしょ。でもさ、なんかみんな、すごいスナオだし…いやな人とかいないじゃん、ここ。だからさ、うちの中学の人も、ここに来たらもっといい人になると思う」。

フリースクール部の生徒数はまもなく20名となる。スタートの時には10名だったから、ちょうど倍の人数になったわけだ。生徒のみんな、そのことには気づいているかな? そして、こんなにたくさんの仲間がやってきたのは、自分たちがつくりだしたスナオで温かい空気があったからこそということも、わかっているかな?