一日にふたつの春
新藤 理
私が担当するフリースクールには、卒業式(新しい旅立ちを祝う集い)はあるけど正式な入学式はない。フリースクールでは四月よりも年度途中から入学してくる仲間のほうがずっと多いためだ。三和高校には四月にしっかりとした入学式の場面があって、列席しているとちょっとうらやましくなってくる。 緊張した面持ちで最前列に座る新入生に目を向ければ、ついこのあいだフリースクールを卒業したばかりの顔ぶれが席の半分以上を埋めている。フリースクール出身ではない、初めて出会う子たちとの関係はどうかな、とちょっと気をもんでいたけれど、気づけば知らないはずの子にも笑顔で話しかけている。初めて会うその相手も、その笑顔につられてか、いつのまにかリラックスした表情になっている。そうそう、AちゃんやB君はフリースクールにいた時もこんなふうにいい役割を果たしてくれていたもんなあ…ついこのあいだのことをやけに懐かしく感じながら、真新しいクラスの空気を見つめていた。 会場には、三和高校を卒業したばかりの先輩たちもたくさん足を運んでくれた。新大学生、新社会人、そして新浪人生などなど。その中のひとり、C君が私を見るなり「ああ~、新藤さーん!」と抱きついてきた。長い付き合いでそれなりに気心の知れた彼だけど、こんなふうにスキンシップを求めてきたのは初めてかもしれない。どうだい大学生活は? と聞けば、「もう…辛いっすよ。毎日泣いてます」という。おやおや。 何が辛い、というわけではないけど、何となくその場の空気になじめない、ついていけない自分がいる。それまでの高校生活があまりに楽しすぎたせいか、どうしても満たされない寂しさを感じてしまう。私にもそんな時期がたしかにあった。自分の弱さゆえのこととはいえ、あれはけっこうキツかった。C君が抱えている辛さがあの時の自分と同じだとすれば、それを越えた先の景色はきっとすばらしいはず…そう思って、やけに力を込めて彼を励ましていた。 そんなに久しぶりでもないはずの卒業生たちだけど、新しい出会いがあふれ、ときに翻弄されるこの時期の再会は、どんなにお互い心強いだろう。春は出会いと期待の季節。そして、それまでに自分を育てて過ぎ去っていった時間の尊さを知る季節。どちらの春も、私にはとてもまぶしく沁みてくる。たくさんの芽が、どうか美しく開きますように。
カテゴリー: スタッフエッセイ
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