人材じゃない
高村さとみ
先日、北海道大学の「教育制度論」で講義をした。今回で3回目なのだが、毎回「不登校の対応あるある」というのを入れている。学校の対応でいうと「家に訪問する」「まったく連絡をとらない」「朝迎えに行く」など。その対応が良い・悪いではなく対応の一例として出したつもりだったのだが、1回目の講義後の感想には「自分も先生になったときにそういった対応をしてしまいそうで不安」とあったので、2回目・3回目はどんな対応をするにしても、子どもの望まないことをしてはいけないということを丁寧に話すようにしている。例えば「家に訪問する」ことを「自分のことを考えてくれている熱心な先生」と捉える子もいれば、「家にまで押しかけてきてプレッシャーだ。心が休まらない」と感じる子もいる。どんな対応をするのでも子どもに了承をとるべきだ、ということを話している。
加えて今年は10月25日に文部科学省から各教育委員会に出された「不登校児童生徒への支援の在り方について」の話を入れた。これはこれまで出していた同通知のリニューアル版だ。支援の在り方として「学校復帰が前提」と書かれていた部分が削除されたため、この通知を歓迎する声もあるが、私からは否定的な捉え方を学生に伝えた。今回の通知が出る前からだが、ICTの学習により不登校の子どもの出席が認められるようになった。今後は一層、無理に学校に行かなくても良いという風潮は広まるだろう。しかし、ICTを活用できるかは環境にかなり左右される。機器があるか、インターネットが使える状態かという物理的な面はもちろん、私は日々子どもと接していて、ICTを活用しなおかつそれで学習ができる子というのはかなり少数だと感じている。例えば家に誰かがいて、学習を促したり、ICT学習の補足をしてくれるなら可能かもしれない。しかし今、そうした時間をとれる家庭がどれほどあるのか。ICTの活用というのはそうした環境により大きな格差があらわれる話だと思う。
こうした流れを見ていると、どうにもこの通知は学校に合わない子どもを学校外に出し、自己責任でICT学習を受けさせる、それもできない子どもは支えない、という切り捨てになっているようにとれる。本来変わるべきは学校であるのに、何か学校や社会に行くために求められている基準があって、それを満たさない子どもには向き合っていないような。
教育は人材育成ではない。教育とは、一人ひとりがこれからの人生を幸せに生きていくための力を育むことであると私は思っている。教員を目指す学生たちが実際に子どもの前に立つとき、人材育成を担うなんて思わないでほしい。子どもたちを一人の人間として尊重してほしい。そんな内容で私の話を締めた。
カテゴリー: スタッフエッセイ
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