幼いころの記憶と言えば
田房絢子
幼いころの記憶と言えば、おじいちゃんおばあちゃんの家の居間とお風呂、そして台所。テレビではドリフターズが騒いでいる。ソファーには若き日のおじいちゃんが。台所ではおばあちゃんが夕飯の支度をしている。そして、それらの記憶にはなぜかうっすらと黄色い靄がかかっている。うすーい黄色いフィルターを通したような記憶。すこし蛍光がかったきいろ。
両親は共働きだ。両親がお休みの日には子どもが学校へ行き、子どもがお休みの日には、両親は仕事へ行く。日曜日におでかけなんて、したことがない。その両親の代わりに、おじいちゃんとおばあちゃんは私を育ててくれた。幼稚園や小学校から帰ると、家におじいちゃんが迎えに来た。歩いて10分ほどのおじいちゃんの家。若いころからせっかちで短気なおじいちゃんは歩くのが早かった。ついて行くのが大変だったけど、だいすきな家に行くのは楽しみだった。
夕飯が近付くと、台所はおいしそうな匂いの、あったかい空気でいっぱいだった。煮物の中に入っている、巨大しいたけを除いたら、おばあちゃんの料理で嫌いなものはなかった。おばあちゃんと向かい合って食べる。おなかいっぱい食べたら、お風呂に入ろう。
うとうとしていると、迎えがやってくる。ちょっとの間、お姫様抱っこしていってほしいから、目はつぶったままにしておこう。ゴトゴトと車に揺られ、最後に自分のベッドに着地して、布団をかけてもらって、電気が消える。そぉっと目を開けてみる。なんだか嬉しくてまた目を閉じる。そうして一日は終わっていく。
大好きなおじいちゃんおばあちゃんの家。どうして黄色かって、今思い出した。あれは、きっと広くて深―いお風呂にたぷたぷ入っているバスクリンの色だ。蛍光がかったオレンジみたいなきいろ。だいすきな、思い出の色。
今はもうない、でも、いつまでも、だいすきな場所。
カテゴリー: スタッフエッセイ
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