2009 年 9 月 10 日

紙しばいの贈りもの

新藤 理

 昨年からフリースクールで始まった「読み聞かせ」の授業。たった25分の時間だったけど、そこで育つ力は、生徒たちにとってとても大きかった。読み聞かせの力はコミュニケーションの力に通じている…そう確信した私たちは、今年度のスタートにあたり、絵本コミュニティクラブのみなさんにお願いして、この読み聞かせの時間を50分に延長していただいた。  先週と今週、生徒たちは初めての経験をつんできた。北海道福祉大学校・白石保育園、その2カ所に手作りの紙しばいを3つ持ち込んで、「出前読み聞かせ」をさせていただいた。  2つの施設のどちらも生徒たちにとっては別世界のようなところだった。お兄さんお姉さんが席を並べる専門学校、ちびっ子がかけ回る保育園。教室に足を踏み入れるだけで勇気を必要とした生徒が何人もいた。どうしても教室の入り口をまたげない生徒もいた。それでも、廊下に座り、教室から漏れてくる仲間の大きな声にじっと耳をかたむけている。気にかからないはずはない。何といっても、これは自分たちの作品なのだから。  7月はじめ、紙しばいづくりの作業は、私たちスタッフの強引な(?)先導によっておもむろにスタートした。探りさぐり、まずは登場人物を考え始めた生徒たち。もちろん紙しばいづくり自体が生徒たちには初めての経験だった。そして私たちスタッフにとっても…。  絵本コミュニティクラブの方々にたくさんの助言をいただきながら、遅々として進まない状況のためにたくさんのご心配をおかけしながら、それでも最後には見事に美しい、かわいらしい紙しばいが完成した。はじめは敬遠していた一部の生徒も、最後にはみんなで色を塗ってくれた。男の子たちの作業が遅れていると知れば、先に作品を完成させていた女の子たちがここぞとばかりに強力な手助けをくれた。まぎれもなく、これはフリースクールみんなの作品だった。  専門学校と保育園のみなさんに見てもらうことを考えて作品をつくる、そのことの意味も生徒たちにとっては大きかった。どんなことも自己満足で終わらせてしまいがちな彼らが、「伝える」ということに向き合った。読み方もしかけも、まるで誰かへの贈りものを考えあぐねるように、あれこれ工夫してみた。これがコミュニケーションの力に通じている。読み聞かせの後、北海道福祉大学校の学生さんに感想を求めると、たくさんの声の中にこんな言葉があった。  「自分たちよりずっと若いみなさんが、こんなにすてきな作品をつくったことにびっくりした。自分ももっと頑張ろう、って思いました」。生徒たちには、この言葉を忘れずにいてほしい。自分たちの努力が誰かを勇気づけられる…そのことの素晴らしさがちゃんとわかる時まで。