2011 年 8 月 2 日

自由が丘のお母さん

新藤 理

 長い間、学園の事務を担当してくださった田村洋子さんの退職の日が近づいている。

 先日、ある卒業生から電話があった。洋子さんの退職の前に、連絡のつく卒業生たちで感謝の集いを開きたいとのことだった。声をかけやすい5~6人くらいの集まりかと思ったら、卒業年をまたいであちこちに声がかかり、総勢20人ほどにもなるという。びっくりしたけど、納得でもある。何しろ、学年や所属に関係なく、洋子さんには本当にどの生徒もお世話になってきたのだ。

 身体の調子が悪いとき、生徒たちは学園のベッドで安静にして回復をはかる。でも、心の調子が悪いときは横になっても治らない。そんなとき彼らは一人になって心を落ち着けたり、友人やスタッフに悩みを打ちあけたりする。そして洋子さんは忙しい事務作業のかたわら、いつでも生徒たちの声に耳をかたむけてくれるカウンセラーのような存在…いや、お母さんのような存在だった。どんなときも相談に乗ってくれた洋子さんにもう一度「ありがとう」を、そして「お疲れさま」を言いたい…そんな想いを抱いてくる卒業生がこれだけたくさん集まったのは、すごいけれどとても自然なことだったのだろう。

 1枚では収まりきらなかった寄せ書きや花束、歌手を目指す卒業生からの歌のプレゼント、そして直前にみんなで練習してきたというコーラス。洋子さんも、プレゼントを手渡すほうも涙ぐんでいた。これだけの人数ならゆっくり洋子さんとは話せなかったかもしれない。それでも、その場に集まっていることだけで十分に「洋子さんに会えてよかった。ありがとう」という気持ちは伝えられたはず。ちょっと寂しいけど、幸せな時間が流れていた。

 参加していたある女の子が「だんだん知ってるスタッフも少なくなってきちゃうなぁ…」と呟いた。それって一般の学校などの事情に照らせば当たり前のことなのかもしれないけど、やっぱり卒業生にとっては「自由が丘はずっと変わらない場所でいてほしい」という気持ちがあるんだろうな。それでも、時は動いている。スタッフもそれぞれの人生を歩んでいく。久しぶりに訪れた卒業生たちが「人が替わったけど、自由が丘は自由が丘だね」と感じてくれるような場所であり続けなくては、と思う。

 もちろん、現役生からも洋子さんへの寄せ書きや贈りものがたくさん届いていた。言葉をつづるのが得意ではないフリースクールの生徒たちだって、洋子さんへの寄せ書きの時にはあっという間にたくさんのメッセージを寄せていた。いつかは私もこんなふうに、たくさんの人の心を照らせる存在になりたい。洋子さん、本当にありがとうございました!