2015 年 4 月 28 日

カレー・マジック!

 フリースクール札幌自由が丘学園スタッフ

新藤理

 もう何年も前に、このスタッフエッセイ欄「いかに昔からカレーが好きだったか」という話を載せたことがある。ひさびさに読み返してみると、「新藤も5月からは30代。健康に気を遣い、カレーはめったなことでは口にしない決意を固めたのだ」なんてことが書いてあって、あきれてしまった。
 今でも週の半分以上はお昼にカレーを食べている。昼どきに二階に行くといつも濃厚なカレーの香りが漂っている、と学園では評判なのである。そのかぐわしい香りを「カレー臭」と呼ぶ輩があとを絶たないのが腑に落ちないところだ(言うまでもなく、「あきれてしまった」というのはカレー断ちをしようとした昔の自分に対してではない。当時の決意などどこ吹く風でカレーを愛し続けている自分に対して、である)。
 ほくほく顔で食べていると、生徒が「ひと口ちょうだーい」と寄ってくることがある。むむっ、我が命のこのひと皿、気軽に頂戴とは不届き千万...と思うのだが、なんてことはない100円のレトルトカレーである。鷹揚に「うむ、ひと口だけじゃぞ」と分けてあげることにしている。特製ガラムマサラでいつも激辛に仕上げてある私の(レトルトの)カレーは、知らずに食べれば口から火を吹く者もいる。にもかかわらず「今日もひと口!」とつかの間の激辛を求めるリピーターは少なくない。そういえば三月にフリースクールを旅立った卒業生も、「感謝のしるしに」とレトルトカレー(辛さ20倍)をプレゼントしてくれた。カレーは人と人とを結ぶ魔法の料理なのだ。

 カレー好き、そして辛いもの好きが昂じて、一年ほど前からプライベートで「激辛部」という部活(?)のメンバーとして活動している。ふだんは同じ楽団で活動している音楽仲間たちの中から、「辛いものが大好きだけど、他人と食事に行くと自分の嗜好に合わせてもらうことはできないから寂しい」というメンバーが名乗りをあげて結成した集団だ。定期的においしそうな各国料理のお店を探しては「できるだけ辛いものでコースつくってください」とオーダーしている。韓国料理やタイ料理や四川料理やメキシコ料理、そしてもちろんカレー。お店の方も迷惑するかと思いきや、むしろ「辛いものですね、まかせてください!」と乗り気になってくれる。
 そんなふうに熱い活動を続けている激辛部の仲間の一人が、この春札幌を離れることとなった。大学の研究員としてオーストラリアのブリスベンに派遣されるのだという。ひとまず一年限定の研究生活だけど、業績をあげればきっとさらに広く世界中へと羽ばたけるだろう。何かにつけ気の合う彼とのしばしの別れは、誇らしくも切なくもあった。
 旅立ちを間近に控え、すでに部屋を引き払ってしまったため最後の数日は研究室で寝泊まりするという彼を、半ば強引に二晩我が家に泊めた。おもてなしには、心を込めた我が手作りのスープカレー。もしかしたらもう札幌で暮らすことはないかもしれない親友に、札幌の味を忘れずにいてほしいという気持ちから選んだメニューだった。
 寸胴鍋に満杯こしらえたスープカレー、手前味噌ながらしみじみとおいしかった。不思議と辛さは感じなかった。カレーを肴に、大いに飲んで語った二日間。思い残すことはありません、と言ってくれた彼を見送ったあとも、部屋にはスパイスの香りが残る。
 
カレーにまつわる思い出がこうしてまた増えた。人と人とを結ぶ魔法の料理。わりとまじめに、私はカレーに人生を支えてもらっている。ちょっと食べ過ぎかもしれないけど。

 この春自由が丘にやってきた小林さんも、近所に大好きなカレー屋さんをひとつ持っているという。札幌のフリースクール界隈にも、何人かの激辛好きがいる。オルタナティブ教育界の激辛部、結成しちゃおうかな。

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