2016 年 8 月 2 日

はぁ~るばる振り返る旅

フリースクールスタッフ 新藤理

夏休みが始まった。
イベント盛りだくさんで駆け抜けた一学期を振り返りながら、少しゆったりした気持ちで新たな日々に向かおう...そう思いつつ、気持ちはすでに次の大イベントに向けて忙しい。夏休みが明けてすぐに出発する、フリースクールの修学旅行のことだ。
今年は函館で三泊四日の旅行を行うことになった。函館で三泊すればかなりじっくりと時間をかけて名所をめぐることができる。グループごとの自主行動にも時間を多く割いて計画が進められている。彼らが函館市内を試行錯誤しながら(?)動き回っている時、スタッフはどうやって彼らにちょっかいを出そうか。そんなことを考えながらウラ計画を立てるのは実に楽しい。私たちだけ、気持ちはすでに「♪はぁ~るばる」来ている感がある。

函館での修学旅行は二回目となる。前回の函館旅行はかれこれ四年前のこと。

当時のフリースクールは現在に比べて在籍する生徒がかなり多かった。中学生集団なのに出で立ちは妙に大人っぽく、男子と女子は常にホレタハレタで泣き笑い、それなりの頻度で悪さをはたらき、でもそんな中で無邪気な小学生たちが可愛がられている、不思議な集団だった。
はっきり言ってそんな彼らを修学旅行に連れて行くのはかなりの重労働だ。当時の資料をひもとくと「誓約書」なる書類が出てくる。
・飲酒、喫煙、暴力行為、その他の非行を行いません。
・夜中にホテルから無断で外出しません。
・夜の就寝時間以降、とくに異性の部屋との行き来をしません。
交わすまでもないと思われそうなこれらの約束を、あえて書面にして誓わせる必要がこの頃はどうしてもあった。
今年の修学旅行に向けては、そのような「誓約書」は用意していない。きっと生徒たちに中身を見せれば「え、こんなの守るのが当たり前だよね...?」とびっくりするだろう。四年前と現在では、端的に言えばそういう違いがある。

そんな四年前の修学旅行中に起きた、今でも忘れられない場面。
ある男子生徒の言動に、何人かの友人たちが腹を立てていた。自己中心的で、話すことの真偽も疑わしいというのだ。「ちょっともう我慢できねえ。部屋にあいつ呼びだすべ」と漏れ聞こえてきた声に、私は待ったをかけた。そんなふうに頭に血が上った状態では解決にはならない、どうしても話したければスタッフを立ち会わせるように、と指導した。納得いかない様子の彼らがその後集まってどんな話をしたのかはわからない。一時間後、血を上らせていた彼らがあらためて私の所にやってきた。さっきとは表情が違う。
「新藤さんの言うこともわかる。さっきのオレたちは確かにちょっとまずかった。でも、なんであいつと話したいかって考えたら、苦情を言いたいとかこらしめたいとかじゃなくて、この先仲良くやっていきたいからなんだよね。そしてできればオレたちの中で始まったことだからオレたちで解決したいっていうのもあるし...それでも新藤さんが任せられないって言うんならあきらめるけど、もしよかったらオレたちを信じて、やっぱりあいつと話させてくれないかな」
さすがに真っ正面からこう来られては、私も彼らを信用するしかない。ありがとうございます!と安心した様子の彼らは、あらためて件の男子と話し合ってきた。後で聞くと、途中から冗談も飛び交うような、それでもお互いの気持ちを正直に確かめ合える、いい時間だったという。「オレがそんなふうにみんなにイヤな思いさせていたなんて気づいてなかった。これからは気をつける」と、ひとまずその場は丸く収まったらしい。
もちろん、それだけですべてがいい方に転がるような甘い現場ではない。激動の一年はまだまだ続く。その後もいろいろな事件が起きた。「旅立ちのつどい」の前日まで事件は起き続けた。ああ、思い出すと今でも頭が痛い。でも、不思議となつかしい。

しばらく前、当時一番いろいろとやらかしてくれた男子に偶然会った。高校でも平穏無事な日々ではなかったけど、何だかんだで大学に合格し、新生活を迎えようとしているという。
「あの頃のこと考えたら、スタッフのみなさんにホント頭上がんないです。なんか恩返しっていうか、これから学園のために何か役に立てたらいいなーって思いますね」
殊勝な言葉を贈ってくれる彼は、函館で語り合ったあれやこれやを今でも覚えているだろうか。

さあ、またまた行くぜ函館~。今年は何が起こるかな。誓約書はないけど、とにかくお互いを思いやりながら楽しい旅行にしようねとだけ強く約束して、手作りの「旅行のしおり」とにらめっこする時間がもうほんの少し続く。